京都市立芸術大学及び
京都市立銅駝美術工芸高等学校
移転整備工事
ただし、A地区及びB地区建築工事 Vol.3
Site On June 2023
文化芸術と地域共生の
新しい物語がはじまります
2021年7月から始まった移転工事は、2023年4月の京都市立美術工芸高等学校開校、2023年10月の京都市立芸術大学移転をもって完了。京都駅東部エリアにおける「文化芸術都市・京都」の新たなシンボルゾーンがついに姿を現す。
地域環境に配慮した工事でつくりあげた
上空通路
新キャンパスは公道を挟んでA、B、Cの3地区に分かれており、人の移動の安全、利便性が求められた。プロジェクトストーリー最終回となるVol.3では、A地区とB地区つなぐ上空通路の建設プロセスを特集する。上空通路の下を通る公道は地域の生活を支えるインフラであり、長時間の通行止めや夜間工事を行うことは、集合住宅が隣接している当現場の状況では近隣苦情へ直結する。「通行止めの時間、日数をどこまで少なくできるか、知恵を絞りました」。
BIMを含め慎重にシミュレーションした結果、南北二方向同時の通行止めを5分間としその間に作業を行い、通行止めと解除を繰り返す方法を採用。たとえば、通行止めの5分で仮設の梁を架けたり鉄骨を組むなどし、解除中に次の作業の準備を行う。作業による通行止め時間を5分以内とすることで、車両や歩行者の滞留を最小限にした。さらに、通行止めを伴う工事は、トータル90日ほどの工事期間のうち延べ9日に抑えたという。「あまり前例がなく安全面の配慮が重要な工事でしたから、行政や警察への届出、調整にも時間をかけました。その甲斐あって、京都市関係者にも地域の皆様にもご満足いただけたと思っています」。
地域に開かれた交流の拠点
新キャンパスには、教育研究成果の発信・交流施設も設置された。キャンパス内で唯一の木造校舎で、京都市産の木材がふんだんに使用されているモダンな空間だ。ここでは通常の授業のほか、市民参加型のイベントなど交流活動が活発に行われる予定だ。
交流施設のほか、地震時における地域住民の避難スペース、災害時の帰宅困難者のための一時滞在スペースもキャンパス内に確保され、防災・減災の機能も担っている。
Staff Interview 1
うれしくなります
つい2年前まで学生だった蓮林。秋から通ってくる学生たちは同じ世代で、新しいキャンパスで学ぶことへの期待の大きさはよくわかる。「彼らの気持ちを想像しながら、ていねいな仕事を心がけていました」。
事前準備とチームワークで「ジャンカ」を防ぐ
蓮林の担当はコンクリートの打設。「質の高いコンクリートを打つためには、ジャンカ(豆板)を発生させないこと」が何より大切なのだという。ジャンカとは、コンクリートの打設不良により表面に砂利や砂などの骨材がでこぼこと浮き出ること。状態によっては建物の強度に深刻な問題をもたらす。蓮林にとっては「あってはならないミス」なのだ。原因は打設プロセスの随所に潜んでいる。型枠の隙間や配筋の不良。不適切なコンクリート配合や打ち込み速度。締め固め不足。手順確認の甘さ。監督指示や連携のミス。「すべてのプロセスを丁寧に、迅速に実施することでしか、ジャンカを防ぐことはできません」。コンクリート打設のプロとしての、蓮林の矜持だ。
自然と輪ができる、やわらかなリーダーシップ
蓮林が頼みとする職人さんは年配の方も多い。コミュニケーションを取りづらいと感じても不思議はないが、「休憩中は趣味の話で盛り上がっています。職人さんたちと過ごす時間はとても楽しいですよ」と涼しい顔だ。これからの現場には、蓮林のようなやわらかなリーダーシップが求められるのだろう。
街づくり
実績豊富な中田所長にとっても、広いキャンパスを一からつくるのは初めてで、とても新鮮な体験だったという。「このエリアには移転・再開発を待ち望んでいた方がたくさんいらっしゃいます。完成が近づくにつれて、若い人たちで活気づく、街が生まれ変わりそう、といった声が聞こえてくるようになりました。ありがたいことです」。移転整備の枠を超え、学生と学校、地域が響き合う新しい街づくりとなった本プロジェクト。所長・中田の夢は形を変えて次の現場に引き継がれる。
- 工事名
- 京都市立芸術大学及び京都市立銅駝美術工芸高等学校移転整備工事 だたし、A地区及びB地区
- 発注者
- 京都市
- 所在地
- 京都市下京区
- 工期
- 2021年7月〜2023年6月
- 設計
- 乾・RING・フジワラボ・o+h・吉村設計共同体
- 監理
- 株式会社三宅建築事務所
- 工事概要
- SRC造、RC造、S造 地上3階建、地上4階建、地上5階建 延床面積約27,700㎡
- 撮影者
- K‘s Photo Workus野口兼史、中谷基